2013/12/09

広島サポの夢

 サンフレッチェ広島のサポーターは今、夢を見ている。

 2011年の終わり、長期政権を築き過去最高成績を残した監督が去り、チーム得点王が移籍し、ユースから育ててきた有望株が毎年のように流出していく。一番チームが苦しかった時期を共に過ごしたバンディエラも戦力外となり、一つの時代が終わったことを予感していた。
 あとに残ったのは苦い記憶と、それをもう一度繰り返してしまう予感。
 降格を常に意識していたチームが上位を争えるところまで成長してきたのに、またいた場所へ帰れと言われてしまったような既視感だった。

 しかし監督経験のないOBと心中する覚悟を決めたフロントの慧眼に間違いはなかった。
 2012年はそれを証明する一年だったとも言える。

 2007年を底辺として、2008年から始まったチームの成長物語は、2010年のナビスコカップ準優勝の屈辱を経て、2012年のリーグ初制覇という形で一つのピークに達したと思われていた。
 2013年の連覇は望外の結果と言ってもいいかもしれない。
 昨年の浦和や川崎は明らかな成長曲線を描きながらシーズンを終わり、明確な補強も行ってシーズンに臨むというタイトルへの覚悟があった。
 広島は初タイトルを獲った昨年ですら、できすぎの成績であると思っていた節はシルバーコレクターと呼ばれた広島の関係者一同にあった。だからこそ「今年を逃したら、もう二度とチャンスは来ないかもしれない」という悲壮な覚悟で戦ったシーズンだった。

 2013年12月7日。鹿島アントラーズのホーム、カシマスタジアム。シーズン最終戦をスタンドで見ていた。
 常に混戦のJリーグで鹿島を絶対王者たらしめている「勝者のメンタリティー」とは一体何なのか、という問いかけの一つにサポーターの力というのは絶対にあることを教えてくれる貴重な場所だ。鹿島のサポーター席は、人で埋まると赤い壁のような迫力を醸し出す。
 一枚岩の人壁が作り出す迫力と声量は凄まじいものがあり、これと同種の圧力は埼玉スタジアム2002しかない。
 こればかりはスタジアムの持つ力としか言いようがなく、人が人を呼ぶ圧倒的な迫力を作り出すための舞台装置の違いが、こんなに大きなタイトル数となってしまったのではないかーーそんな思いが脳裏をよぎった。

 同じオリジナル10でありながら、サポーターだけを比較しても純度や迫力は明確な差があることも事実だった。ただここに出した両チームとも品格という部分では問題を抱えていることもまた事実ではある。他のチームから「凄い」と思われることと「尊敬できる」と思われることは別なのだが、試合になると前者がものをいう。
 最終節でも象徴的なシーンとして、大迫の退場のシーンを上げたい。
 スタジアム全体がどよめく中で、鹿島サポーターの赤い壁は動揺も見せずに同じパワーでチャントを歌い続けていた。これが他のチームであれば烈火の如きブーイングが審判に降り注いだであろう、そのシーンで選手もサポーターも表立って動揺を見せなかった。

 「それがどうした。俺達は勝つんだ」

 そんな声が聞こえた気すらした。

 貫く気概、ブレない立ち振舞。

 前年王者として迎えた今シーズンの広島は、どんな相手であろうとも大きな浮き沈みしなかった。
 そこには鹿島と同質の揺るがない姿勢が見えている。
 昨年王者という表現はシーズン当初に何度も目にしたが、終盤戦に至るに連れて徐々に減っていった。それは広島の残した成績が平坦でなかったこと、広島(浦和)対策と呼ばれる専用戦術を敷いてくる対戦相手が増えたことも無関係ではない。
 昨シーズンの序盤は勢いで登っていった。後半戦は対策されて苦しい戦いが続きながらの初制覇だった。
 勝利と引き換えに今シーズンの苦しさが予感としてあったため、今年の目標は「まず残留」と口にした人も少なくなかった事実が、現実となったのが開幕戦だった。
 敗戦で始まった今シーズンは、広島対策で得点が伸びないことを予想させたし、現実として得点力は10点以上も落ちている。それでも得失点差は20を超えて最終節にマリノスへ引き分けではいけないというプレッシャーをかけるのに役立ってくれていた。
 だがそれでも昨年の圧倒した記憶を蘇らせる試合は、今年ほとんど見せたことがない。
 
 前半で奪った一点でリードし、前半終了間際には相手チームの絶対エースが退場するという展開に浮かれてもおかしくはなかった。
 それでも頭のなかにあったのは「ナビスコの決勝を思い出せ」という苦い記憶。残り数分でこぼれ落ちていった初タイトルへの挑戦権を得るまでに、どれだけの痛みが通り過ぎていっただろうか。
 
 果たして広島は勝った。
 史上4チーム目の連覇という偉業も達成した。
 しかし、覇者たりえる圧倒的な強さを備えているわけではない。2013年終了時点で、通算成績はまだ300勝に届かず、勝利数よりも敗戦数が上回っているチームだ。今年も9敗しているし、上位をみると横浜と浦和には全敗している。
 相変わらず選手に払えるお金はリーグ中位であろうし、札束で主力が抜かれていくことは続くだろう。世代交代は抜かれた主力を若手で強制的に埋めるような形で、ベテランを若手が倒すような正常系で行われることは今後もあまりないと想定される。
 だがそれも仕方がない。
 広島はクラブの成長物語を提示して、共感を得てきたチームだ。今後もそれは育成型を謳う以上かわらない。ビッククラブのようにタイトルを買うようなスタイルを応援している人も望むまい。
 頂点にたっている以上、いつか曲線が下降線を描く。だがそんな日が来たとしても、スタメンに並んでいるのが下部組織出身者で埋められていたとしたら、どんなステージで戦っていたとしても広島の未来はきっと明るいだろう。

 サンフレッチェ広島のサポーターは今、夢を見ている。

 連覇という現実が、目が覚めたら幻ではないことを。
 元旦、国立競技場に何度も置き忘れてきた輝きを今度こそ持って帰れることを。
 来年のリーグ戦、過去最大の困難な道程もチームとサポーターが手を取り合って乗り越えていけることを。

 来年の今頃、どんな順位であっても笑って夢を見続けている夢を見ている。

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